近年の健康ブームやSNSの隆盛を背景として、ジムに通い体を鍛え、鍛えている姿や鍛えた体の動画・写真をSNSにアップして他人と共有する人が増えています。
ジムの経営者からすればジムの会員数が増加することは嬉しいことですが、他方、会員数が増えれば、それだけ会費の滞納や踏み倒しに対応する機会も増えることになります。
今回はジムの会費の滞納・踏み倒しに対し、どのように対応すべきであるかについて解説します。
ジムの会費滞納・踏み倒しへの対応方法3個
1. 電話・メールでの早めの督促
ジム会費を滞納している会員を確認したら、すぐに電話やメールで督促の連絡を入れるようにしましょう。
ジム会費の支払方法は様々ですが、口座引き落としやクレジット払いを選択している会員の中には、そもそも自身の会費滞納に気づいていない人たちもいます。
このようなそもそも会費滞納に気づいていない人たちは自発的に滞納を解消する行動を期待することはできませんから、早めに電話して滞納していることや滞納を解消することを促す督促の連絡をしましょう。
他方、自身の会費滞納に気づいている人の中にはジム側からの督促がないとそのまま放置してしまってもよいという甘い考えに流れてしまう人も一定数いますから、やはり早めの督促が有効です。メールの連絡だけでは督促メールに気づかないこともあるので、できれば電話での連絡が良いでしょう。
電話やメールによる督促は後の書面による督促や法的措置によるジム会費の回収と比較してコストが掛からない上、早期の対応が可能であるため、ジム会費の滞納に対する対応としては実は一番簡単かつ有効な方法であるともいえます。
2. 書面での督促
口頭やメールでの督促をしてもなおジム会費を滞納する会員に対しては書面による督促をしましょう。
書面による督促をする場合には、
①滞納している会費がいつの月の分であるのか(滞納している会費の特定)
②いくら滞納しているのか
③それをいつまでに(支払期限)
④どのように支払えばよいのか(振込であれば振込先口座)
を記載しましょう。
書面による督促を行う利点は電話やメールでの督促と比較して滞納会費の回収に対する本気度が滞納会員に伝わるため、早めの滞納解消のための対応を期待できます。
特に会費を意図的に滞納する会員には経済的困窮のため、他の借金の返済などの支払も滞納している場合が多いですから、書面による督促により本気度を伝えて、優先的に対応してもらうことを期待しましょう。
また、書面での督促は後の法的措置による回収や時効の問題が絡んできた際の証拠に使えます。
最初のうちは普通の郵便を使っての督促でもよいですが、何度督促しても対応しない会員に対しては内容証明郵便を使っての督促をしてもよいでしょう。
「内容証明郵便」とは、いつ、だれに、どのような内容の書面を送ったのか、証明することができる特殊な郵便のことです。これに配達証明を併せて使えば、その書面がいつ相手に届いたのかも証明できます。
内容証明郵便と配達証明を使って督促することは特に時効が迫っているような場合には必須となります。この点については後で詳細を解説します。
3. 法的手続による滞納会費の回収
口頭・メール・書面での再三の督促をしてもなお滞納を解消しようとしない会員に対してはいよいよ法的措置による回収を考えなければなりません。
法的措置による回収を図る際の注意点は大きく2つあります。
1つはどのような法的手続があり、どれを選択すべきであるのかです。もう1つは、もし裁判所が滞納会費の支払を命じたのにそれでも対応しない会員に対してはどう対応するのかです。
まず、選択すべき法的手続の種類ですが、よほど長期間ジム会費を滞納している場合でない限り、滞納額は少額でしょうから、「支払督促」(書類審査による簡易な金銭の支払を求める手続であり、相手から異議が出されれば訴訟に移行するが、異議が出されなければ通常の訴訟による判決と同じ法的効果が発生する手続)、または「少額訴訟」(60万円以下の金銭の支払を求める場合に利用できる通常の訴訟より簡易かつ迅速に終了する特別な訴訟手続)のどちらかを選択することになるでしょう。
次に、裁判所の手続を通じて滞納会費の支払を命じられてもなお滞納会費の支払をしない会員に対してとるべき対応としては、強制執行があります。
ただし、この強制執行を行うには再度裁判所に対する申し立てが必要であるのと、そもそも差し押さえるべき会員の財産を特定できなければ行うことができません。
たとえば、ジムの会員になるときに作る申込書に勤務先を記入してもらっているような場合には、その勤務先を辞めていなければ会員の給料を差し押さえることができますし、ジム会費の引き落とし口座にお金が入っていればその口座を差し押さえることにより滞納ジム会費を強制的に回収できます。
会費の滞納を未然に防ぐコツ
1. クレジット支払を推奨する
ジム会費の滞納を未然に防ぐ方法としてまず会費のクレジット払いを推奨することが挙げられます。
クレジット払いであれば、仮に会員の手持ちとして会費を払う現金がなかったとしてもクレジット会社が会費を立替してくれますから、会費は滞納になりません。
他方、会員としてもクレジット会社による立替分の支払については一括ではなくリボ払いにすることもできるため、手元にお金がない場合でもジム会費を滞納することなく乗り切ることができます。
2. 保証会社を利用する
次に、ジム会費の滞納についても、家賃滞納の未然防止と同様、保証会社を利用することが考えられます。
保証会社を利用すれば、もし会員がジム会費の支払をしなかった場合でも、会員に代わり会費をジムに払ってくれます。
ただし、保証会社を利用する場合には、保証委託料が発生しますから、これを会費に転嫁すれば会費が高くなってしまうでしょうし、ジムが負担するならばコストの増加につながりますから、そこは注意すべき点です。
なお、保証会社ではなく、一般人の保証人を付けることも考えられますが、ジムの会員になるのに保証人を用意するよう求めるのは難しいのではないでしょうか。
ジムの会費滞納の時効
時効とは?
時効とは、簡単にいえば法的な権利が一定期間の経過により消滅してしまう制度です。
ジム会費について言えば、ジム会費の滞納に対する対応を長期間放置してしまうと、滞納会費の支払を求める権利が法律上消滅してしまい、もはや取立ができなくなってしまうということです。
なお、厳密にいえば、時効による権利の消滅は単に時間の経過により自動的に生じるものではなく、一定の時間の経過を前提に義務者が時効を利用して権利者に対し義務を免れることを伝える必要がありますから、たとえ時効が完成する期間が経過していても、督促を行うことは構いませんし、それに対し、時効を利用することなく払われた滞納会費を後になり返還する必要もありません。
ジム会費の時効は何年?
それでは滞納ジム会費を何年放置すると時効になってしまうのでしょうか。時効が完成する期間については法律が定めています。
ここで注意すべきは2020年4月1日から施行された改正民法により時効の制度は大きく変更されている点です。ここではその詳細については解説しませんが、ジム会費の時効期間については、以下のように整理されます。
まず、2020年4月1日より前に締結されたジム会員契約に基づき発生したジム会費の時効期間は2年(改正前民法173条3号)です。
そして、2020年4月1日以降に締結されたジム会員契約に基づき発生したジム会費の時効期間は5年です(改正民法166条1項1号)。
ジム会費の時効を防ぐには?
ジム会費の滞納を長期間放置してしまい時効が完成してしまいそうになったときには内容証明郵便で督促すれば6ヶ月間は時効の完成が猶予されますから、その間に話し合いや訴訟での解決を図りましょう。
ほかに滞納している者に支払の約束の書面をもらったり、滞納している金額の一部の支払をしてもらうことでも時効の完成を防ぐことができます。
ジムの会費滞納は信用情報・ブラックリスト入り?
信用情報とは過去のローンの利用に関する情報が記録されたものであり、ローンの審査の際に確認されます。もし信用情報にローンの返済に関する滞納歴が記載されていると、ローンの審査に落ちる可能性が高くなります。
ジム会費を滞納した場合には信用情報に滞納歴が登録されてしまうのでしょうか。
「信用情報」は、複数の貸金業者が各貸金業者の顧客の信用情報を登録して共有するものです。
ジムは貸金業者ではないため、通常ジム会費を滞納したことにより信用情報に登録されることはないでしょう。
ただし、ジム会費の滞納に関して貸金業者が保証会社になっているような場合には、その貸金業者が加盟している信用情報機関に事故情報が登録される可能性があります。
まとめ
ジム会費を滞納された場合の対応としては、口頭での督促、書面での督促、支払督促・訴訟提起のような法的手続による回収の3つが挙げられます。
ジム会費の滞納を放置してしまうと、2020年4月1日より前に締結されたジム会員契約に関するものは2年、2020年4月1日以降に締結されたジム会員契約に関するものは5年で時効となり、回収不能になりますから注意しましょう。
ジム会費を滞納しても基本的に信用情報への登録はありませんが、貸金業者が保証会社になっているような場合には信用情報に登録されてしまい、後のローンの審査に悪影響を及ぼす可能性があります。